評論家・八幡和郎のニュース解説「時事解説」

八幡和郎の時事(時事ニュース)解説
掲載日:平成23年11月01日

「日本も財政赤字なのにどうして円高なの?」「TPPと農業」「古賀茂明君のこと」

野田内閣はひたすら安全運転です。大チョンボはありませんが、日本の存在感はますます薄れてきました。といっても、欧米の経済危機の中で日本は、相対的に安定しているというので、円高は進みます。そんななかで、今回は、よく質問されるいくつかのトピックスについての短いコメントです。

「日本も財政赤字なのにどうして円高なの?」

ヨーロッパではすでに税金が高いのでこれ以上の増税も難しく、ギリシャなどの財政赤字は、その解消の方策を見つけるのもたいへんですが、日本の場合には、消費税を25%ほどまで上げれば、それだけでも問題解決です。また、外貨準備や在外資産もあります。その意味では瀬戸際まで追い詰められていないから円高なのです。しかし、現在の世代が必要な負担をせずに、財政赤字を増やしたり、埋蔵金といった過去の積み立てで継続的な収入にはならないものを崩すという勝手気ままを続けるのは、世代間のひどい不公平になるのが問題なのです。年金の支給年齢の引き上げが論じられていますが、過去の世代が残した負債を放置し、さらに、積み上げると、こういうことがたくさんおきます。正しい政策としては、

  1. 人口減少をなんとしても食い止め、しゃかりきに経済成長を促進して、GDPの増加によって税率など負担増の軽減を図りつつ…、
  2. それでも足りない部分は先送りすることなく速やかに負担の適正化を図るしかありません。
  3. 小さな政府をめざすことは、「効率的」であるだけなら正しいですが、公共の役割を減らすことは社会的矛盾の放置や将来への投資を怠ることにつながりかねず、単純には賛成できません。

いずれにせよ、これ以上、先送りを続けていると、この国は速い速度で没落していくしかありません。ただし、東日本大震災からの復興については、臨時の出費ですから先送りや埋蔵金の活用も一理があります。もっとも、現在の復興対策は長期的観点を欠いたもので、ほとんどどぶに金を棄てているようなものですが。それから、経済成長については、そんなもの要らないという乱暴な意見もあります。たしかに、経済成長が望めないから、それを前提とした対策をというのは、今の政治のていたらくでは残念ながら正しいのでしょう。しかし、政策レベルで言えば、何もしなければほんのわずかの成長すらできないのですから、必死になって少しでも高い成長をめざすべきなのです。このふたつのことの違いを混同させかねない言辞は国を滅ぼしかねません。

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TPPと農業

TPPがいいのかFTAやEPAなどがいいのかは、慎重に考えなければならないところです。といっても、日本が乗り遅れている内にどんどん話は進んでいますから選択肢は少なくなってるのが頭痛のタネですが。ただ、「農業を守るため」という理屈は全面否定したいと思います。政策目的はもっと具体的であるべきですし、さらに、その目的のためにもっとも合理的な手段を選び、かつ、それがコストに見合うかが検証されねばなりません。たとえば、地方での雇用を確保するのは必要です。しかし、農家はほとんど兼業で農業以外の収入の方がずっと多いのです。農業を過度に保護して産業が空洞化して工場がなくなっては農家のためにすら元も子もありません。地方の雇用を守るためには、農業はじめにありきでなく最善の政策を考えるべきです。また、農業のためにも、輸入を抑えるより建設的な政策がいっぱいあります。米の自給が必要というのも大嘘です。貧しい国が国際的な不作で価格が高騰すれば買えなくなるのが嫌だから自給率を上げたいというなら分かります。しかし、豊かな日本が買えなくなることはありませんし、価格高騰といっても何十年に一度くらい平均の二、三倍かになるくらいです。それが怖いからといって日本人が毎年、国際価格の10倍もの米価を払っているのは、商品価格の何倍もの盗難保険料を毎年払うくらい不合理な話です。また、石油がなくなれば自動車が動かないとか化学原料がなくなりたいへんですが、米をたまたま一年だけ食べられなくても麦などがあれば、それほど困ることではありません。ちなみに、食料自給率とか食料安全保障などという奇妙なコンセプトは日本独自の屁理屈で世界で通用しません。カロリーでの自給率など、外国では計算もしておらず、日本の農水省による独自の推定なのです。

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古賀茂明君のこと

経済産業省の後輩である古賀茂明君の著書や言動が注目されていますので、私の所にもいろいろ意見を求めに来る人がいます。古巣と後輩の関係についてあまり意見を言いたくないのですが、聞かれればこんなことを言っています。古賀君の言っていることのうち細かい具体的な問題についての意見については、かなりの部分は正しかったり、鋭い指摘であったりします。ただ、そうした意見が採られなかったとか、彼が望むようなポストにつけなかったことにつき、制度論としてどうあるべきなのかについての彼の意見はあまり理解できません。つまるところ、政治家に人事をやらせれば自分のような正しい意見が採用され報われもするという理屈のように見えるのですが、現実には彼の提案するシステムでは、たまたま、彼を評価してくれる大臣に巡り会わない限りは、まず最初に彼のようなタイプの人物がクビになったり口を封じられるだけなのではないでしょうか。それに、彼の意見では、ほとんどの政治家や官僚は、自分や組織の利益しか考えないものだと極端な性悪説に立っているようなのですが、政治家や官僚は、成り行きでそうした職業についただけといった例外的で不幸なケースを除けば、普通には相当に高い志をもっているものです(古賀君自身は惰性でなっただけというように書いていますが本当だとすれば例外的な存在だと思います)。ただ、医者や教師、あるいはジャーナリストのような職業でも同じことだと思いますが、官僚も個人や組織の利益にまったく無関心ではありえません。ですから、すべての点で完全無欠な制度などありませんが、相対的に最適なシステムをとることによって、彼らの個人的利益も控えめには実現し、場合によってはその実利や名誉を求めるエネルギーをむしろ利用しつつ、最大限にいい仕事をするようし向けるのが正しい方策です。ところが、古賀君の論じているのは、役所の人間が、個人や組織の利益を考えること自体が極悪非道でそれが日本を悪くしているのだといわんばかりだということのように見えるのですが、これは、理にかなっていないように思えます。もし、私の受けた印象が彼の真意でないとすれば幸いです。私自身の考え方について言えば、戦後だけでも何十年もたって、現在の行政システムに欠陥が目立っているなかで、首都移転と道州制による霞ヶ関の再編成、事務次官制度の廃止、大臣補佐官制度の創設による政官の関係円滑化、公務員住宅の原則廃止、フランスのENAのように初任者研修を終えてから各省庁に配置すること、各省庁間の垣根を低くするための方策などが必要だと思っています。そうしたことを、諸外国の制度を運営実態も含めて研究したうえで、現実的に可能で効果が見込めるものとして、もう30年も前の1980年代の前半から、多くの本を書き、テレビなどでも提案してきました。ところが、現実には、根本的な改革などしなくても「倹約と綱紀粛正」だけでなんとかなるという「プチ改革路線」が主流を占めて、この国はますます悪くなっていくのが残念なことです。

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八幡和郎に関する紹介文
八幡和郎
やわたかずお

評論家
コーポレートガバナンス協会理事
1951年滋賀県大津市生まれ
1975年東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。
1980年には、当時から行政の最進国であったフランスの国立行政学院(ENA)に留学し、ジュルス県庁、工業省、フランス電力、クレディ・リヨネ銀行にて行政を研究。
以後も留学で得た知識を実際の国内行政に活かし、通商産業省大臣官房情報管理課長をはじめ、数々の役職・任務を果たす。1997年に通商産業省を退官後、実際の行政の実情と経験から問題点を指摘できる数少ない論客員として、テレビの対談番組への出演や本の出版など、幅広く活動。
現在、コーポレートガバナンス協会理事のほか、徳島文理大学教授

[八幡へのメール]
yawata88@mx.biwa.ne.jp

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